305bbcaa.jpg鎌倉市で助成制度が始まった子宮頚がん(HPV)ワクチンについて、西鎌倉こどもクリニックの下田先生のお話です。このワクチンに限らず『女の子の「命」について考えてあげる機会』という先生の言葉がひびきます。

西鎌倉こどもクリニック 院長 下田 康介
2010年8月20日

鎌倉市は神奈川県内の自治体としては初めて子宮頚癌ワクチン接種の助成を決定し、9月までには各家庭に「助成対象者カード」が送付される予定です。今年度は中学2年生と3年生の方が対象です。最終的には年度ごとに学年を繰り下げて、小学5年生の女の子を対象にしていくようです。

子宮頚癌ワクチンについては、ネット上も含めて、いろいろな情報が飛び交っています。子宮頚癌がヒトパピローマウイルスの一部にによる感染症であることが理解されていないこと、癌がワクチンで予防可能なことがいまひとつしっくりわからないこと、ひとりひとりの女子の性交渉がどのように始まっていくのか個人の人生の問題なのに一律にワクチンの接種を勧めるやり方に納得できないこと、ワクチン供給・販売を外資系の製薬会社が「独占」していること、任意接種で(つまり親御さんの自由意志で判断し、費用を負担するワクチン)、かつ自治体の助成が現状ではばらばらで差があること、等の事情があるものと考えられます。

小児科医の本音を明かせば、ヒブワクチンや肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンに加えて、さらに任意接種の子宮頚癌ワクチンが加わり、小児科医個人の接種能力や診療所の能力が追いつかないかもしれないという不安もあります。また、子宮頚癌ワクチンは、他の予防接種と異なり、皮下注射ではなく筋肉注射で接種される「手技」の問題もあると思います。思春期前後の女子の腕に筋肉注射をするのは、皮下注射をするより「難しい」ことで、経験が必要です。

厚労省も最近の大臣所見を見ると、近い将来日本では子宮頚癌ワクチンの公費助成を推進する方向がはっきりしています。癌にかかるかからないという個人の問題ではなく、赤ちゃんを産む可能性のある若い女性を少子化する日本社会から失いたくないという考えもあるようです。

女の子の子育てをされているお母さんたちも、やがて接種するかどうかの決断を求められるでしょう。他のワクチンと同じように、ワクチンは人間が知識と経験を集めて作り出した「文明の利器」であるという原点を考えてみましょう。「利器」とは、簡単に言えば、便利な道具という意味です。「クルマ」や「飛行機」も「文明の利器」です。無ければ不便ですが、正しく使えば人間の生活に貢献してくれるものです。人間が作ったものですから、当然、事故や故障、ワクチンで言えば「副作用」や「副反応」があります。私たちは、たとえば鎌倉市のホームページから「子宮頚癌予防接種」という言葉で検索して、自治体が提供している情報や製薬会社が提供している情報をチェックし、このワクチンがもたらすメリットとこれまでにわかっている副反応をよく考えてみなければなりません。

助成制度が始まることは、任意接種につきまとう経済的負担を考慮に入れず、冷静にこのワクチンのことを知る良い機会だと思います。また、学校や塾などの 学業や部活あるいは習い事などに忙しい思春期前期の女の子の「命」や近い将来の「人生」をあらためて考えてあげる機会だと思います。

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